日本の製造業が抱える3つの問題に関する記事をご紹介いたします。
売掛金買取センターのファクタリングではつなぎ資金調達が可能です。

最近になって、日本の経常収支が赤字になるか黒字を維持できるかということが、新聞やテレビを騒がせている。経常収支とは、貿易収支、サービス収支、所得収支、経常移転収支の総計である。中でも問題なのは、これまで黒字を維持した貿易収支が巨額の赤字に転じたことだ。2012年が約6兆円の赤字であり、2013年が約11兆円の赤字。2014年度にはさらに増えるであろう。

貿易収支の巨額赤字を埋めているのが所得収支である。小川氏は、製造業の多くが海外に生産拠点を持っており、ここで得られた売り上げやロイヤルティが日本に還流して貿易収支の赤字を補っている。それでも貿易収支の赤字増を補いきれない。経常収支が2014年度に赤字になる可能性もあり、最も懸念された財政赤字と経常収支の「双子の赤字」になってしまう、と語る。

注目すべきは、貿易収支で輸出の96%が製造業であること。したがって、製造業の輸出力が強くなれば経常収支が抱える問題を一気に解決できる。しかし日本の製造業には、3つの深刻な問題がある、と小川氏がいう。まず円高。ようやく1ドル100円台に回復したが、これまで長く続いた円高によって多くの生産拠点が海外へ移転し、国内からの輸出が大幅に減少した。海外に移転した生産拠点が日本に戻ることはないので、輸出が大幅に増える可能性も小さい。

第2の問題は、地方から工場が消えて地域経済が崩壊しつつあること。2000年ごろに再来した円高によって、製造拠点が大規模に海外へ移転した。日本からアジア地域に移転した生産拠点は、この15年あまりで4万拠点に上る。この間、1450万人もあった製造業の雇用が1000万人まで減少した。工場の大部分が地方にあるので、生産拠点のアジアへのシフトは特に地方経済を直撃した。働き場所が少なくなった若い人々が地方から都市部へ移りはじめ、地方の人口が急激に減少している。

もし国内に生産拠点を残せるのなら、すなわち国内で生産してもグローバル市場で競争優位を維持できるのなら、地方に安定した雇用が生まれる。将来に希望のモデル雇用があれば、若者が地方に戻り、人口も増えて地方経済が活性化する。このためには、どうすればよいのだろうか。これが小川氏の深刻な問いかけであった。

 

なぜ新興国が先進国の企業に勝てるのか

小川氏が指摘する第3の問題は、100年に1度ともいうべき産業構造転換が起きて製造業でもグローバライゼーションが急速に進み、エレクトロニクス産業などが市場撤退を繰り返す事実である。

製造業のグローバライゼーションとは、技術、人、もの作り、知的財産などが一瞬にして国境を越える現象であり、製品設計にソフトウエアが介在して出現する第三次産業革命によってもたらされたものである。

第一次産業革命は、教科書に書いてあるように、18世紀後半の英国でおきた。英国で起きたのは、所有権や知的財産権の法体系が最初に整備されたのが、当時の英国だったからである。これによって企業や個人に強いインセンティブが生まれ、インセンティブが技術革新を次々に生み出してイノベーションのペースを加速させたのだという。

第二の産業革命は19世紀末のドイツと米国で起きた。19世紀になると、例えばオームの法則やアンペールの法則などが次々に発見された。これらの科学的発見が新技術を生み出し、新技術の束が電機産業や重化学産業などの大規模な産業をこの世に作りだした。これが自然法則による産業化である。

さらに20世紀後半には、第三次産業革命ともいえる人工的な論理体系(ソフトウェア)の産業化が登場した、と小川氏はいう。自然法則を組み合わせて技術革新を起こすのではなく、人間が作りだした論理体系(ソフトウエア)を組み合わせて技術革新を起こすようになったのだという。

現在の製造業では、非常に多くの産業領域がソフトウェアリッチ型に転換し、プロダクト・イノベーションを主導するのが、ハードウエアではなくソフトウェアになってしまった。現在のEV(電気自動車)やHV(ハイブリッド車)の開発工数の50%はソフトウェアの開発に使われるが、デジタル家電は70%を超えてしまった。もちろんハードウェアは必要だが、その価値を何十倍にもするためにはソフトウェアが必須となったのである。

ここで特に注目すべき点は、設計にソフトウェアが深く関ると製品のアーキテクチャが寄木細工型になる、という事実である。寄木細工型になれば、その製品の産業が国際的な分業型になりやすい。例えば液晶テレビもスマートフォンでも、さまざまな国の企業が材料や部品、製造装置、量産組み立てはもとより、ソフトウエアの開発など、得意領域を持ち寄って作られる。この意味で、大規模なビジネス・エコシステム型の産業構造がグローバル市場にできあがった。

エコシステム型にならないことを前提にした日本企業の勝ちパターンが、ここから通用しなくなり、技術イノベーションで巨大な需要を創出したはずの日本企業が、大量普及のステージでは市場撤退を余儀なくされている。この事実を小川氏は多く事例を上げながら説明した。

さらに小川氏は、太陽電池も、リチュームイオン電池、LED照明、カーナビもすべて同様で、2000年以降には、日本企業に替って新興国の企業が市場のリーダーとなっていると語る。

それでは今後、日本企業はどうすべきなのか。日本企業が強いのは、材料や精密部品などのハードウェアリッチな分野である。ここは自然法則を産業化する製品領域であった。一方、ソフトウエアリッチな製品の領域では日本企業がことごとく負けている。

問題は、ソフトウエアリッチな分野で劣勢に立っているという意味で、日本企業の技術革新が非常に遅いという事実である。このままでは21世紀の日本企業が危ない。

技術で劣り、知財、もの作りで劣る新興国が、なぜ先進国の企業に勝てるのか。小川氏は、まず第一に、減価償却のあり方など国の税制に問題がある、という。新興国が減価償却の期間を企業に任せるという制度を推進してきたが、日本では昨年の国会でようやく減価償却期間を短くした。アンア諸国より約15年も遅く、半導体産業も液晶テレビ産業などはもう手遅れになった。

第2の理由は、技術が瞬時に国境を超えやすくなった点にある。技術や特許の蓄積が非常に少ない新興国の企業は、国境を越えて伝播してくる技術を調達しながら低コストで量産し、市場を席巻した。このとき、例えば液晶テレビで新興国が日本に支払う特許利用料は、売上全体の数パーセントに過ぎない。例え日本企業が圧倒的な特許の数と質を誇っても、せいぜい数%のコストダウン効果にしかならないことを、これは意味する。

つまり、国の制度設計や企業の知的財産マネージメントを、グローバライゼーション経済環境に適応させなければ、日本企業が生き残ることはできなくなったのである。

 

企業人が競争ルールを決める時代の登場

こうした製造業の問題は、日本企業に限ったことではない。例えば、米IBMがPCのシェアを落としていった背景も、オープンな企業間分業、技術伝播、グローバライゼーションなどに象徴される経済環境に直面して競争優位を瞬時に失った。圧倒的な技術イノベーションを生み出すIBMであっても、経営危機に陥ったのであり、1988年から1994年にかけて15万人をレイオフした。当時のIBMが日本のエレクトロニクス産業と同じ状況に置かれていたのである。

1980年代に米国は知財政策を変更した。基本思想として、基本特許を持つ企業が優位になるプロパテント政策への切り替えであり、これによって技術漏えいを防ぎながらアメリカ企業の競争力を強化した。もう1つ重要なのが、ソフトウェアに著作権を与えたことである。これによりソフトウェアを開発する企業や個人に強力なインセンティブが生れて米国のICT産業が盛んになる。現在の米国がグローバルICT産業を主導できるようになった背景がここにあったのである。

21世紀になると、日本の製造業でもグローバライゼーションが他の多くの産業領域に広がる。このとき、付加価値の高い製品を守りながら、いかに世界中に普及させていくかが重要となる。これを実現するのが、オープン&クローズの知財マネージメント戦略思想(オープン&クローズ戦略)である。

小川氏は、オープン&クローズ戦略の神髄は、実ビジネスにおいて、まず企業と市場の境界を設計し、次に知財権を自社のコア領域に集中させ、そしてこのコア領域と他社技術をつなぐ境界領域に知財権を集中させることだという。

もしここで、コア領域からエコシステムを介して市場支配の仕組みを構築できれば、新興国の成長を自社の成長に取り込むことができる。企業人が、競争ルールを自らの手で決める時代となったのである。

さらにこの延長、グローバル市場の隅々にまで自社のコア技術の影響力を持たせる「伸びゆく手」の仕組みも生まれる。この考え方は、製造業でソフトウェアリッチ化が進む1990年代に、かなり大規模に普及した。小川氏が提唱する「伸びゆく手」形成という経営思想は、アダムスミスの神の「見えざる手」やチャンドラーの経営者の「見える手」などの系譜に繋がる。

 

広がるアップル、グーグルの伸びゆく手

アップルの売上は、すでに2011年の時点で約8兆円を超えた。利益率は30%~40%と非常に高い。特徴的なのは、それでも他社に比べて特許の出願登録数が非常に少ないことである。特許が日本企業に比べて10分の1もないのに、なぜアップルは1人勝ちすることができたのか。

アップルの強みは世界中の人が欲しくなる製品を開発したことだ、と多くの人が言ってきた。しかしながら小川氏の主張は、第1に、アップルは、守るべきところと(コア領域)と守らなくてもいいところ(オープン領域)を明確化し、守るべきところだけに特許を集中してクローズ領域を完全に守っていることだ、という。オープン&クローズ戦略の徹底である。

第2に、キャッチアップ型企業のクロスライセンス攻勢からコア領域だけを守り、価格競争を仕掛ける企業を徹底排除したことだ、という。製品価格を長期にわたり維持できる仕組みがここにあった。

そして第3に、自社のコア領域に知財を集中させ、同時に既存技術との結合領域に知財を集中させる。同時に、境界領域の知財を公開して競合企業をパートナーに変える。この戦略が、アップルの最も独創的な点である、と小川氏は繰り返した。

企業人が自ら世界の産業構造と競争ルールを作る時代の登場は、欧州の携帯電話やスマートフォン、ロボット、3Dプリンタ、自動車、医療機器などの分野へも次々に広がっている。そしてここで例外なく、グローバル市場をコントロールする仕掛けが作られている、という事実をわれわれは理解しなければならない。

例えば欧州の携帯電話市場では、携帯電話端末の仕様をオープン化(公開)にするが、携帯端末の電波を交換機に繋ぐ基地局は、完全クローズになっている。日本企業が携帯端末でいかに高い技術力を持っていても、欧州側が基地局を日本企業に公開しなければ携帯電話のサービス事業を展開できない。欧州は徹底してクローズにした基地局から、オープン標準化した携帯端末の市場に、強力な伸びゆく手を形成していた、と小川氏がいう。

こうした伸びゆく手は、多くの産業領域に拡大している。例えば、PC市場におけるインテルモデルが、2000年代には自動車産業にも出現した。2010年代になると、スマートフォン市場のグーグルモデルさえ、自動車産業に見え隠れしている、と小川氏。

小川氏によれば、Autosarという標準化団体が開発したベーシックOS(オープン領域)を使い、この上でアプリケーション開発の効率が飛躍的によくなる開発ツール(クローズ)を、欧州企業が提供しはじめたという。ここから新興国の自動車業界に向かって強力な伸びゆく手が形成されようとしている。

この仕掛け作りは、グーグルの手法と全く同じである、と小川氏はいう。一見、オープンだったはずのアンドロイドOSの上にクローズな開発ツールを提供し、クローズ領域からスマートフォン市場に強力な影響力を駆使したのがグーグルであった。

 

先進国型製造業としての日本企業の方向性

以上を話し終えた小川氏は、2014年現在の日本のエレクトロニクス産業を「ものづくり敗戦」という人もいるが、日本のエレクトロニクス産業は決して「ものづくり敗戦」ではない。実態経済から乖離した「為替政策の敗戦」であり、競争ルールの変化に適応できない古典的な「知的財産マネージメントの敗戦」である、と繰り返す。この問題を解決するための経営思想が、小川氏のオープン&クローズ戦略だったのである。

具体的には、オープン&クローズの戦略思想で自社のコア領域に知財を集中させ、同時に依存技術との結合領域に知財を集中させることだ、という。さらにグローバルなビジネス・エコシステムをコントロールする「伸びゆく手」を形成する知財マネージメントが事前に設計されていればならない。

日本企業にオープン&クローズの戦略思想が定着すれば、国内で生産してもグローバル市場で競争優位を維持できるようになり、地方に安定した雇用を提供することがでる。安定な雇用があれば若者が地方に戻り、人口も増えて地方経済が活性化する。同時に経常収支が大幅に改善し、ドイツと同じメカニズムで赤字国債の発行を少なくすることさえ不可能ではない、と小川氏が締めくくった。